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僕は僕の服を探す。
今なら言えると思い、口を開く。
「……僕、本当は、制服のスカート好きじゃないんだ。着さされてる気がして」
そう、とお母さんは頷いた。
「お母さんも嫌いだった。だから、行き帰りはズボンで行ってたわよ。冬とか最悪よね。タイツはくなら長ズボンをはかせてよって、先生に言った記憶があるわ」
明るいお母さんの口調に、一気に肩が軽くなった。
「私、スカートすきだよ。ふわりふわりしてて可愛いもん」
「光希は昔からふりふりが好きだったけど、紬はシンプルなものが好きなのよ。ね、私に似て」
お母さんが笑うと、つられて笑ってしまった。
家に居ると僕は僕のままで、男や女やLGBTQの事は宙に浮いて、今すぐどうこうしなくていいや、と思える。
自分一人で考えると大きくて押しつぶされそうになる悩みも口に出すと少し軽くなるのが不思議だ。
それに、口に出すとお母さんも昔、一緒だったことを知れた。
「僕がスカートは嫌だな、って思ってるのは変じゃない?」
お母さんは、変じゃない、とにっこりと笑った。
「紬の運動が得意なのは父さん似だからな」
いい所は全部俺に似た、ってお父さんはいつも言ってる、と光希ちゃんが笑い、僕も笑った。
グループの事も、性別の事も、スカートの事も。
問題は解決したわけじゃないけど、口にして良かった。
僕は着ていたズボンの裾の折り目を伸ばし、立ち上がった。
「制服はずっと着る訳じゃないから、大丈夫よ」
お母さんは僕の肩を、ぽんと叩き「さ、もうお風呂に入って」と、またキッチンに向かった。
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