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「……嫌だな」  僕の言葉は、光希ちゃんの笑顔をふっと消した。 「お古が嫌? せっかくの可愛いスカート……もうシワが入ってるもんね」  申し訳なさそうに言う。 「違うよ。スカート自体が……、だよ」 「あぁ。つぐちゃん運動部系だもんね。スカート落ち着かない?」 「ううん、そうじゃなくってーーー」  違和感をどうにかして言葉にしようするけれど、できそうにない。  確かに落ち着かないけど、それ以上に着させられている感がして、それが嫌だなんて、うまく言えない。 「制服着るとワクワクしない? つぐちゃんすっごくお姉さんに見えるよ。似合ってる」 「そうかな」 「こっちに来て」  腕を引かれ、二段ベッドの反対側に回る。  部屋を区切るように真ん中に置いた二段ベッドの奥には、光希ちゃんの勉強机と本棚がある。窓は少し開いていて、春の陽気な風が入りこむ。光希ちゃんのスペースには、ピンクの化粧ポーチや、刺繍フリルのついた水色のワンピースがハンガーに掛かっている。ほわほわとした明るく、優しい色合い。  窓の横には、白枠の姿見の鏡があり、覗くとセーラー服を着た不機嫌な僕が居た。 「似合ってるでしょ?」  ショートカットの僕がセーラー服を着ると、男の子が変装しているようにしか見えない。一重の切れ目、キツネみたいにすっと伸びた鼻。耳と顎は小さく、小顔だと言われる。鋭い顔付きだ。手足は無駄に長くて、ふわふわとした女の子らしさのカケラもない。  ぜんぜん、似合ってない。  なのに、光希ちゃんは「身長があるとセーラー服はかっこいい」と言って、手を叩いてはしゃいでいる。 「僕より、光希ちゃんの方が似合ってる」  ブレザーを着た光希ちゃんは、えへへ、と笑う。紺色と紅色のチェックのリボン触って、同色のチェックスカートをふうわりと揺らした。  動くたび新品の、糊の効いた匂いがする。 「いいでしょ、つぐちゃんも同じ高校にしたらこの制服、着られるよ。チェックのスカート可愛いよね」 「うん、可愛い」
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