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次々に校舎に入りこむ生徒の波に飲まれないように、一緒に横に避けると、二ヶ月前には目線が少し下だったのに、わずか上にチロ君の目があることに気づいた。
「あれ、チロ君……背、伸びた?」
下唇を薄く噛んで、チロ君は嬉しそうに二、三回頷いた。
「ぼ、僕、にいちゃんが居るんだけど、二人とも身長が高いんだ。だから、もっと伸びると思う」
「……いいなぁ。僕ももっと身長が欲しいな。ジャンプするとまだネットまで身長が少し足りないんだ」
「……ふ、藤谷さんは、そのままで良いって」
なんども言われたこの言葉を今更ながらに、問い返す。
「その、チロ君が言うそのままって……」
閉じた傘の水滴を払って、クルクルと小さくまとめ、チロ君は僕を見た。
前髪も耳にかかりそうだった髪も短い。
いつ切ったのと、覚えていないぐらい彼の方をまっすぐ見られなかったのかと、どきどきしてしまう。
「や、やっぱり気になる女の子より身長は高い方良いかな……。だから、そのままでいて欲しいって……」
チロ君は穏やかな顔をして、まっすぐ言葉に気持ちを乗せてくるから、どうしていいのか分からなくなってしまう。
僕は持っていた鞄の紐をぎゅっと持って、片方の手はスカートを握った。
じめじめとした空気が制服のシャツと一緒に張り付いているのが分かった。
「あ、え、っとー」
「チロ君、つぐちゃん、おはよー。どしたの、早く教室行こうよ〜」
岸ちゃんが傘に乗った雫を払い、僕たちを見た。
「うん、岸ちゃんおはよう。行こうっ!」
声を上げて、僕は彼女の腕を持った。
心臓がばくばくと忙しい音を立てている。
上靴に履き替えて、濡れた運動靴を入れた。
ちらっと後ろを振り返る。チロ君と目が合いそうになって、慌てて、前に向いた。
気になる女の子って僕のこと、だよね。
急に、真剣に見てくるチロ君が、男の子に見えた。
そして、それは僕をとても騒ぎ立たせる気持ちにした。
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