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汗のシャツを着替えて、更衣室から出ると部長が居た。
制服に着替えており、帰るだけなのにどうして制服なのかな、と不思議に思って、声を掛けようとすると、先手をとられた。
「お待たせ」
ジャージを着た男子が部長に駆け寄る。
「そんなに待ってないよ」
「……制服に着替えたんだ。スカート、良いね」
ジャージを着た男子は部長に笑いかけ、部長も恥ずかしそうに笑顔を返した。
お似合いだな。二人も、部長のスカートも。
並んで歩く二人が傘をさして、校門の方向に歩いていく背中を見送る。
――いいな。
と、ふっとわいた感情に戸惑う。
スカートは嫌いなのに、二人を見て、そう思った。
どうしてかは分からない。でも、並んでいる二人はすごく自然で、とても嬉しそうだった。
すぐに自転車置き場に向かわずに、なぜだか音楽棟を見てみたくなった。
遠回りだけれど、それでも見たかった。窓から教室を覗くと中には誰も居なかった。残念な気持ちになって、とぼとぼと自転車置き場に向かう。雨を校舎脇に屋根伝いに避けながら、時々、細かい雫を浴びて、古めかしい屋根の自転車置き場に入る。
やっと着いたと、顔を上げると、白いリボンが膨らんだ女子が僕を見ていた。
「前川さん……」
バレー部の取り巻きの二人は居なかった。
教室で僕に謝った一件で、前川さんと彼女達に少し距離が出来ているのはなんとなく感じていた。一緒に帰るのはもうやめてしまったのだろうか。周りを見回すと一人のようだった。
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