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「……岸辺さんとは、似顔絵の話をしてたじゃない」
「……岸ちゃんとは」
と、口を開きかけて、はたと閃いた。
「じゃあ、岸ちゃんに前川さんの似顔絵も描いてもらう? 上手だよ」
「……嫌よ」
今度は、大きいため息が出た。
「前川さん、僕と仲良くなりたいの? 嫌いなの? 仲良くなりたいんだったら、僕の話を聞かないとって、マキセンが言ってたでしょ」
むっと眉を寄せ、不本意という表情のまま彼女は口を閉じた。
「……それに、僕はオトコオンナとか言われて、悲しかった。本当は許したくない。喋りたくもない。でも、想像しても、前川さんの気持ちが分からないから、聞くよ。あと、僕もはっきりと言う。僕はスカートも似合わないし、好きじゃないけど、僕はーーー、って僕って言ってるけど、一応、女の子だから」
前川さんは身を少し引き、目を大きくした。
「……自分の意見、言えるじゃん」
「……言えるようになったんだよ。僕だって、自分のことが分からない時もある。変なのかなって悩む時だってある。だから、前川さんにあんなに悪く言われたら、何も言えなくなる」
「それは……、ごめん」
「僕も、何度も誘ってくれたのに、理由も言わず断ってごめん」
ふるふると首を振って、彼女は笑顔を作った。口元を必死であげようとしているが、頬がぴくぴくと震えている。
「……あと、さっきの部長と尾崎先輩が付き合ってるのはあんまり言いふらして欲しくない……本人達も嫌だろうから、黙っといて」
「……一緒に帰ってるくせに秘密なの? 変なの」
「前川さんて……」
本当に、思った事をすぐ口に出してしまうんだな。
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