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僕は頭をかいて、半乾きの雨合羽を身につけた。鞄をカゴに入れ、ビニール袋に水が入らないようにする。
「雨合羽、ダサいね」
「はは、そうだね」
ファスナーを上げ、ヘルメットを被る。
前川さんは傘を雨空に広げた。
「じゃあ、また明日。……ばいばい、紬」
「……前ちゃん、ばいばい」
手を振って、自転車に飛び乗った。
ヘルメット越しにポツンポツンと雨が当たる音がして、雫が水色の雨合羽の上を滑り落ちていく。
ペダルを踏み、水たまりを避けながら前に進む。
すぐに雨でけむったように、姿を薄くした佐々木城の石垣が見えた。いびつな石が積み重なった、側面はなだらかなアーチを作っている。ネットも、ショベルカーも、パソコンもない、何百年も前に作られた物なのに、僕はこの石垣をどう作ったらいいのか見当もつかない。昔の人はすごいなぁとつくづく感じてしまう。
城の好きなチロ君はたまに聞いてもいないのに城の豆知識を教えてくれた。最後の城主は誰だったとか、お城の堀掃除で芸能人が来て番組になっていたとか、入場料が普段はかかるけれど、特別な日には無料で天守閣まで入れる、とか。
チロ君は家に帰って、歌の練習をしているのだろうか。
頭の中で、何の歌を歌っているのだろう。
ふと思い、信号が青になったため、横断歩道を渡った。
雨の雫がじわじわとファスナーを通して、染み込んでくる気がする。帰るだけなので、もうどんなに濡れてもいいか、と、自転車を漕ぐスピードを速めた。
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