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 チロ君は次の日、学校に来なかった。マキセンは季節の変わり目の風邪だと言っていた。  さっそく、岸ちゃんに、前川さんの似顔絵の提案をすると、喜んで引き受けてくれた。  社会の授業が創作の狙い目だから、三時間目の後の休み時間には大作が出来上がる、とビックマウスを炸裂(さくれつ)し、ゆうちゃんは大爆笑していた。僕も堪えきれずに笑ってしまった。  授業が始まり、隣の席を見ると誰もいない。色鉛筆が一色足りないようで、落ち着かない。  社会が終わり、前川さんに声を掛ける。  嫌そうな顔をしていたけれど、無理やり、岸ちゃんの机へ連れて行った。 「見て。この見事なツリ目とへの字口。鼻は高さを出すために影をサインペンで黒く塗ってみました」  岸ちゃんは自信満々で社会の資料集を広げた。いつもより余白のスペースが大きい。大作の意気込みを感じた。  目や輪郭はシャーペンなのに、鼻の影だけが濃くてホラー風味の似顔絵に思わず吹き出してしまった。 「チロ君、見て、傑作―――、」  振り返った席には誰もいなくて、あ、そうだったと思う。 「似てないっ! 私はもっと目が大きいし、鼻もそんなに高くないっ!」  前川さんが岸ちゃんに文句を言っていたので、誰にも見られていなかった。けど、何となく決まりが悪くなった。 「紬、誰がこんな変な絵を描く友達が欲しいって言った?」  嫌味ったらしく言う前川さんを無視して、岸ちゃんの教科書を見る。  確かにパーツを少し誇張しているけれど、目の上がり具合や鼻の高さはよく似ていた。特徴を捉えるのが上手だなぁ、と感心してしまう。 「……すごく似てる」  僕の言葉に「うそーっ! 」と、前川さんが声をあげ、それを見たゆうちゃんは笑った。
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