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 僕が学校に来る理由……。  バレーをするため、勉強するため、友達に会うため、楽しみな給食があるから?  考えているうちに、僕の中で、一番強い気持ちがあることを見つける。  チロ君に会いたいな、と思って今日は学校に来た。  そうだ、朝からずっとこれを思っていた。  でも、これを素直に言ってしまうのは何だか恥ずかしい。 「会いたい人が居るから、かな」 「へぇ〜、誰?」 そう聞いたのは前川さんだった。 「み、みんな、かな。友達、先生、先輩」  僕の返事に、ふーん、と彼女は頷く。  にやにやした岸ちゃんが、前ちゃんは紬が好きだから、名前を呼んで欲しかったんじゃないの、と、笑うと、前川さんはリボンを揺らして、岸ちゃんの背中を叩いていた。  始業のチャイムが鳴って、席に戻る。  僕は教科書をすぐに出して、窓の向こうを見た。  窓ガラスががたがたと風で震える。分厚い雲が流れていく。その速さで風の強さを知る。  チロ君は雨雲がこんなに自由に泳ぎ回る日に、じっと家の中で過ごせるのだろうか。    好きな音楽を授業中ならまだしも、一日中部屋の中で歌い続けるのは難しそうだ。  先生が入ってきて、教科書を開いた。  ノートに先生の言葉も足して、しっかりと書き写そう。  チロ君が学校に出てきたら、見せよう。  ペンケースの中からシャープペンと蛍光ペンを取り出して、前に向いた。  黒板には数学の数式が書き写されていた。
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