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 久しぶりに晴れた。  前カゴの下には、降水確率が低くても梅雨の間は、常に雨合羽を入れている。そのため、カゴがかさばり、大きな段差を勢いよく乗り越えようとすると、飛び出そうになる。宿題しか入っていない鞄は身軽で、よく跳ねる。  歩道から車道に乗るわずかな段差で、ぽんぽんと弾むように浮くのが面白くてわざとする時もあるけど、車が多い中学校付近ではやめようと、速度を落とした。  半ブレーキを掛け、校門をくぐると、自転車置き場にチロ君がいた。 「おはようっ!」 遠目で分かり、大声が出た。 「ふ、藤谷さんっ! おはよう」 ぶんぶんと腕を振って、チロ君の持っていた鞄も一緒に弾んだ。  近づいて、自転車を降りる。 「もう、風邪いいの?」 「う、うん。もう、すっかり」 チロ君の透明感のある声。 「……声変わりじゃなかったの?」 「う、うん。僕の願望だったみたい」 「願望……」 くすりと笑うと、チロ君も、えへへ、と笑う。 「チロ君が休んでた日の分、ノート取ってるよ」 「ありがとう」 「チロ君が学校来てなかったら、なんだかつまんなかったよ」 僕の言葉に、え? と照れたようにもっと笑った。 「……前ちゃんと話、できたよ」 「そ、それは、良かった」 「前ちゃんの事、嫌いにならなかったのはチロ君のおかげだから、ありがとう」 「ぼ、僕なにもしてないよ」 「してるよ」  僕が見ると、チロ君は照れたように頭をかいた。  白い腕は夏服を身につけていて、サイズはぴったりだ。涼しげな白袖が太陽の光を返し、輝く。
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