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先生が「もう少し大きな声で」と、言い、滝下くんは、ちらっと教卓を見て、今度はびっくりするぐらいの大声で、
「滝下千紘ですっ、部活はコーラス部に入ろうと思っていますっ、出身は城前小学ですっ、アダ名は、チロ君ですっ!」
と、一気に言った。
教室が変な静けさにつつまれる。
同じ城前小と言っていた海堂くんが、立ち上がり「チロ君は緊張してるんだよ」と場が和むように「な、チロ」と、声をかけた。
チロ君は三回ぐらい、こくこくこくと頷いて、またガタガタガタと音を鳴らして、椅子に座った。
まとまらない拍手がちらほらと上がって、すぐに後ろの子が空気を変えるように立ち上がり自己紹介を始めた。
僕の順番が来て、立ち上がった。
緊張するから、みんなを見ずに先生を見た。
「名前は藤谷紬です。出身は山野小です。部活はまだ考え中ですが、運動部に入りたいです。アダ名は、えーっと、つぐちゃんと呼ばれてました」
座ろうとすると、先生が口を開いた。
「藤谷さんは身長が高いな。小学校では何かクラブに入ってた?」
「……はい、運動クラブに」
「へぇ、それはいいな。……バレーは好き?」
「はい。僕、バレー好きです」
一瞬の変な間が空いて、あ、と思った。
今、いつものように僕って言ってしまった。
他の女子みたいに、私って言った方がいいなって思っていたのに、とっさに聞かれ、そう答えてしまった。
拍手はなく、後ろの方で名前も分からない誰かがひそひそと「僕って言った?」「でも、制服はスカート着てるよ」「キャラ作りかな」と、探るような会話が聞こえた。
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