9/10
前へ
/51ページ
次へ
 失敗した。  中学に入学したら、変だからやめようと思っていたのに。  体を小さくするように椅子に腰掛けると、隣から大きな拍手が聞こえた。 びっくりして、音の先に目をやると、チロ君が黒板の方を向いて手を叩いていた。それにつられるように何人かが拍手をしてくれた。  時間割表が配られ、中学生活の注意点と生徒手帳の決まりを読んだ。  校則の服装にはスカート丈について書いてあった。  膝が隠れる長さにするように。下にズボンを履かない。髪も肩につかないように一つに結ぶ。  髪が短い僕にこれは関係ない。  だけど、男子は耳に髪がかからないように、と書いてある。女子より厳しい気がする。  ふと、隣のチロ君を見ると、校則ぎりぎりの長い髪をしている。学ランが大きいのか袖が手の甲を半分隠してしまい、ズボンの裾も床についている。お古じゃなさそうだけど、あまりにもサイズが大きくて、居心地が悪そうだった。  チロ君って呼んでみてもいいかな。  でも、彼はずっと手元を見ていて、僕が視線をちらりと送っても、無反応だった。隣の席だから、何とか挨拶ぐらいはしたいけど、さっきの僕の自己紹介で変な空気になったから、関わりを持たれるのは嫌かもしれない。  最初のホームルームが終わり「明日からは通常授業だ。今日は解散」と、先生の声を聞いて、急いで教室を出た。  自己紹介は終わったのに、教室に居ると、みんなが僕を見ている気がした。
/51ページ

最初のコメントを投稿しよう!

35人が本棚に入れています
本棚に追加