『あなたのために』

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 部屋の奥でさっと着替えてきた笹原を迎えて料理を並べたローテーブルの前に隣り合って座り、改めてワインのグラスで乾杯する。 「料理、どれもキレイだし美味そうだな。あの駅向こうのデパートで買ったの?」 「はい。何でも揃ってるし、わざわざ足伸ばして都心まで行かなくてもいいかなって」  卓上の皿に笑顔を見せる恋人に安心する。料理など碌にできない間柴には最初から買ってくる以外になかったのだが、間違ったチョイスではなかったらしい。 「うん、あのデパート全然悪くないだろ。俺もたまに、仕事帰りに地下で総菜買ってたし。でも見た目だけじゃなくてホントに美味いよ、特にこのエビのサラダ。俺、これ凄い好き。やっぱこういう本格的な味は素人にはなかなか出せないよなぁ。料理自慢の人なら別かもしれないけど、こういうのパパっと作れたらいいよな」 (よかった、慧さんが気に入ってくれて。そうじゃなくても、任せたなら文句言う人じゃないけど)  ご機嫌で食事を続ける笹原を見ながら、間柴はホッと一息ついた。
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