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「先生って」
沖の話を聞いて、有坂は恐る恐るといった調子で切り出した。
「先生って、もしかして凄く、ものすごーく俺のこと好きなの?」
「……今更何言ってんだよ。『ものすごーく好き』じゃなかったらこんな危ない、完全にリスクしかない関係に踏み込むはずもないだろ」
有坂の疑問に、沖は呆れた様子を隠そうともしなかった。
「高校教師が教え子の高校生と、なんて大袈裟じゃなく一生を掛けるつもりでもないと、できることじゃなかったんだからな。しかも、最初は十六歳だったわけだし。俺の決死の覚悟は、お前には全然伝わってなかったってわけか?」
「違うって! いくら俺でもそれくらいわかってるよ、当たり前じゃん」
有坂はその誤解だけは解かないと、と慌てて手を振りながら言い訳を始めた。
「わかってるけど。なんかやっぱり、俺が言い出したから、っていうのがどうしてもさぁ」
「俺はな、根本的には良くも悪くも他人に流されるようなタイプじゃないんだよ」
沖も、有坂が本気で何もわかっていないとは思っていないだろうが、きちんと自分の想いを言葉にする。
「だからこれは、俺が自分で決めたことなんだ。先に言い出したのがどっちかなんてたいした問題じゃないんだよ」
「……うん。そうなのかもしれない、けど」
有坂にとっては、正直『どちらが言い出したか』はそれなりにたいした問題だったのだが、沖が違うというのに抗議する気などはない。
沖は自分の考えを話しているだけで、有坂のそういう感情を否定しているわけではないからだ。
「俺はいくら生徒に迫られたって踏み止まる自信はあるけどさ、万が一流されたとしたらここまで我慢なんかできなかったと思うよ。その時点で揺らいでるわけだから」
沖の話を聞きながら、有坂は高校時代を思い返していた。
屋敷に知られたと沖に報告して、二人の今後の方針を確認したあと。学校では、沖とは本当に挨拶くらいしかしなくなった。
アイコンタクトさえなるべくしないように気をつけていたくらいだ。沖はともかく有坂の方は、きっと感情が零れてしまっただろうから。
通信アプリで時々メッセージをやり取りして、どうしても声が聞きたくなったときは通話もしていたけれど。
その気になればいつでもすぐに触れられるくらい近くにいたのに、まるで遠距離恋愛みたいな状態に耐えられたのは、きっと。
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