プロローグ

1/1
11人が本棚に入れています
本棚に追加
/33ページ

プロローグ

 自由さ溢れる校風。生徒の自主性を育み、主体的な思考が身につく環境。ありきたりで何も響かないフレーズだと、眼の前の文章を追いかけながら強く感じた。  晩飯の用意が出来たと母さんの呼ぶ声がする。惜しくもないカタログは放り投げて、すぐに下へと降りていった。 「コータロー。あんたねぇ、ごはんの時くらいスマホをピッピピッピいじるの止めなさい。何回言わせんのよ」 「いじってねぇし。音楽聴いてるだけだし」 「言い訳すんじゃないよホラ」  仕方なくイヤホンを取った。テーブルに所狭しと並ぶ皿の傍に、ワイヤレス式のイヤホンを添えてみると、なんだか箸置きっぽく見えて面白い。 「親父は今日も遅いんだな」  正面の茶碗が居心地悪そうにひっくり返っている。 「残業よ。今は繁忙期だからね」 「本当かよ。実はキャバクラとか行ってんじゃねぇの?」 「そんな訳ないでしょ。あの人は病的な人見知りなんだから」  軽口を挟む間、山盛りご飯が手渡された。そして2人揃って唱和。いただきます。 「ところで、明日から初登校でしょ。道順は大丈夫なの?」 「平気だよ。スマホで調べられるから」 「出たよスマホ。たまには自分の頭も使いなさい」 「皆やってる事じゃん」 「ついでに言うけど、もう少し鍛えなさいよ。スマホだパソコンだ、ちがう事を始めだと思ったら楽器なんか弾いちゃって。そんなんじゃ女の子にモテないよ」  結局はそこに繋がる。こんな会話は珍しい事じゃなく、割といつもの光景だった。母さんはアウトドアにハマッて欲しいようで、その思惑がいつも透けて見えた。 「別に興味ねぇし。おかわり」 「自分でやんなさい。赤ちゃんかよ」  そんな風にしてメシを食い終えるなり、部屋に戻った。ギターをアンプに繋いで、ヘッドフォンを装着、パソコンで曲を流しながら演奏を始めた。この時間は割と楽しい。人生のつまらなさが薄まるような気がして。 「……イテッ!?」  突然、端の弦が切れた。替えようにもストックは無い。  こうなってしまうと、大体がどうでも良くなり、楽器をかたして寝転がった。プレイリストの曲をランダム再生しながら天井を眺めてみる。  明日は登校日。そう考えてみても、やっぱり胸に巡るものは少なかった。
/33ページ

最初のコメントを投稿しよう!