薄明にたゆたう

3/9
前へ
/9ページ
次へ
「うるせぇな。お前には関係ないだろ」 「関係あるよ。となりでずっとため息つかれてたら、気になるじゃん」  梨花が口をとがらせる。目の前のベンチでは、あいかわらずカップルがいちゃついている。 「あたしでよければ相談にのるよ? 一時間でも二時間でも、一晩でも」  おれはもう一度、梨花をにらんだ。 「できるわけないこと言うな。いつもその紅茶飲み終わると、さっさと帰るくせに」  梨花が一瞬、眉をひそめ、すぐにぷくっと頬をふくらませる。 「だってうちの親うるさいんだもん。門限六時なんだよ。あたしもう高校生なのに、ありえないでしょ?」  公園に夕陽が差し込んできた。ブランコや滑り台が金色に光りはじめる。 「大人はいいよね、自由で。門限なんてないもんね」  梨花が前を向いて息をはく。おれはその横顔から、目をそらしてつぶやいた。 「よくもねぇよ」 「えー、でも柊斗くんはいつもひまそうじゃん。ここでのんびりコーヒー飲んでさ」 「ひまそうとか言うな。おれはこのあと仕事なんだよ」 「えっ、そうなの?」  梨花が驚いたような声を出す。これだからのんきなガキは…… 「おれはな、これから夜勤なんだよ。お前が寝ている間に、仕事してんの。その前にここでコーヒー飲んで、気持ち切り替えてんだよ」 「へぇ……じゃあ、あたしが学校に行ってる昼間、柊斗くんは寝てるんだ」  おれは少し考えて答える。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

14人が本棚に入れています
本棚に追加