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「まぁ……今日はちょっと人と会ってたけど」
「人って……彼女とデートとか?」
梨花がにやっと笑い、また顔をのぞきこんでくる。こいつ、いちいちムカつくやつだな。
「ああ、そうだよ! 彼女に会って、フラれたんだよ!」
「えー、かわいそ」
そう言って今度は目を丸くする。くるくる表情がよく変わる。てか、本気でかわいそうって思ってないだろ?
胸の奥に押し込めた気持ちが、うずうずと湧き上がってきた。
「『柊斗くんとは時間が合わないから無理』なんだってよ。じゃあ時間が合えばよかったのかよ。俺だって好きで夜中に働いてるわけじゃねーんだよ!」
飲み干した缶を、力任せに投げつけた。ガコンッとゴミ箱の角にぶつかった空き缶が、コロコロと地面を転がっていく。
その音を聞いたカップルが、立ち上がってこそこそと公園から出ていくのが見えた。
「くそっ、なんか文句あるか!」
もやもやが治まらなくて、地面を蹴る。
いや、ちがうんだ。時間が合っても駄目だったんだ。
いくら歳を重ねても、大人になりきれないおれだから……彼女にあきれられたんだ。
背中を丸め、ちらっととなりを見ると、梨花がおれのことをじっと見つめていた。
「な、なんだよ」
「ううん。大人もいろいろ大変なんだなぁって思って」
顔をしかめたおれに、梨花がにっと笑いかけて言う。
「まぁ、子どももいろいろ大変だけどさ」
梨花は前を向いてミルクティーを飲んだ。そしてペットボトルを膝にのせ、空を見上げる。
梨花の横顔に夕陽が当たって、黄金色に輝いていた。
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