薄明にたゆたう

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「だったらこっちの方角を撮ったほうがいい」  おれは梨花の手にそっと触れて、スマホの向きを変えた。 「ほら、あそこに鉄塔が見えるだろ。あれをシルエットにして……」 「あ、ほんとだ」  カシャッとスマホから、歯切れの良い音が聞こえる。 「なんかカッコよく撮れた」 「だろ?」  梨花が嬉しそうに笑う。なんだかこっちまで嬉しくなる。 「でもいちばんヤバかったのは、葉山の夕陽だな」 「葉山って、三浦半島の?」  スマホを手に持った梨花が腰をずらし、距離を縮めてくる。  おれはカメラを首に下げて出かけた、夏の終わりの海岸を思い浮かべる。  あのころのおれはまだ、梨花のように制服を着ていた。 「ああ。海の向こうに富士山のシルエットが浮かんでさ。空がすっげぇ広いの。青からオレンジのグラデーションがめちゃくちゃきれいで……あのとき撮った一枚が忘れられないんだよなぁ、おれ」 「だったら、また撮りにいけばいいじゃん。行きたいんでしょ? 柊斗くん」  黙って梨花の顔を見る。梨花はにこにこしながら、おれの顔を見ている。 「……そうだな。また行けるといいな」 「行けるよ! ねぇ、もっとカッコいい写真の撮り方教えて。SNSにアップしたいの」  梨花がスマホを掲げてそう言った。 「そうだなぁ……カメラがあれば、もっといい写真撮れるんだけど」 「あたし持ってないんだよね、カメラ」 「貸してやろうか?」  ついこぼしてしまった言葉に、梨花の顔がぱあっと明るく輝いた。
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