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「え、いいの? 柊斗くん、やさしい!」
「は? やさしくねぇよ、おれなんか」
「やさしいよ。柊斗くんは」
梨花がさっき撮ったスマホの写真を見下ろし、つぶやく。
「こんなきれいな写真が撮れるんだもん。きっとやさしい人だよ」
そんなことない。どんなヤツでも、きれいに撮れるって言っただろ?
危なっかしいな、この子。変な男に騙されなきゃいいけど。
「まだ帰らなくていいのか? 門限あるんだろ?」
「あ、うそ、もうこんな時間?」
梨花がスマホで時間を確認して立ち上がった。
「ありがと、柊斗くん! なんか元気出た」
「おれは、なんにもしてねぇよ」
梨花がおれの前で、ちょっと照れくさそうな顔をする。
「じつは今朝、親と派手に喧嘩しちゃってさ。今日は家に帰りたくなかったんだよね。このまま知らない人について行っちゃおうかなぁ、なんて思ってた」
陽が落ちて、赤かった空が紫色に変わっていく。
「柊斗くんが悪い人でもいいやって思って……」
梨花が肩をすくめて、ふふっと笑う。
「でもちがった。悪い人じゃなかった」
「お前なぁ……」
おれはため息まじりにつぶやく。
「そういう考えはやめなさい。もっと自分を大事にしろ」
「なにそれ。急に大人ぶって、おかしー」
けらけら笑う梨花のバックが、青とピンクのグラデーションに染まった。
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