大嫌いなあの子の、パパ

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 特に、骨ばった大きな手がいい。みさとから携帯を受け取る手に視線が吸い寄せられる。それがスラックスのポケットに消えると、みさとはつい、追いかけるように彼のワイシャツの肘をつまんでいた。 「みさとちゃん?」  覗き込む視線を避けるように、俯いた。 「あの、岩井さん、今日麻雀勝ったの、私のおかげだって……」 「うん。満貫二回出たからなあ」 「じゃあ、一つ、お願い聞いてもらってもいいですか。お礼がわりというか……」 「いいよ、なに? 難しいことじゃなかったら」  声で相手の顔がほころんだのがわかった。一つ息を吸って、勢いよく顔を上げた。わざと大げさな手つきで自分の肩を叩く。 「肩揉んでください。根詰めて勉強してたんで、肩凝っちゃって。ちょっとでいいから」 「ああ、なんだ。そんなこと」  相手は片膝をベッドにあげる形で、みさとに向いた。みさとはラップトップをベッド脇のテーブルに置いて、そのまま岩井に背を向けて背筋を伸ばした。 「お願いしまーす」  わざと明るい声を出す。 「はい。強かったら言ってください」  岩井もみさとの調子に合わせ、ちょうどいい力加減でコリをほぐしていく。
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