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「あ、岩井さん、上手かも」
やっぱり、気持ち良かった。少しでもいいから、この手に触れられてみたかった。引き止めたのはただ、それだけの理由だった。
「みさとちゃん、若いのに相当硬いよ。もっと運動した方がいいんじゃないか」
「やっぱ、ヨガとかした方がいいのかなあ」
「水泳もいいって言うよね」
うーん……。そう喉を鳴らしたきり、みさとは黙った。大きな手の温もりがシャツ越しに肌に沁みていく。岩井も話しかけてはこず、ゆっくりと手を動かしている。静寂の向こうで、再び雷が鳴った。重く、鋭い音の後に空気が震えた。肩の上の手が止まる。
「近いね」
「岩井さん、雨降る前に帰った方がいいかも」
みさとが振り向くと、相手はなぜか目をそらした。
「そうだな、そうしようかな……」
岩井が腰を浮かした途端、「ドカーン」と大きな音がして、部屋の電気が消えた。
「きゃあ!」
視界が暗転し、みさとは反射的に岩井の首にしがみついていた。まるでたくさんの砂利が一気に落ちてきたかのような音をさせて、雨が屋根を叩き始める。
「大丈夫。大丈夫だから、みさとちゃん」
雨音に混じり、ゴロゴロと空は唸っている。
「怖い……」
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