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岩井はみさとの体に腕を回し、宥めるように頭を撫でた。もう一度落雷し、みさとは本気で恐怖を感じて、さらに相手の胸に身を寄せた。
「すぐに止むから。大丈夫だよ」
岩井の腕に力がこもると、守られているという安堵からため息が漏れる。そのみさとの耳の近くで、岩井が鋭く息を呑むのを聞いた。
その時になって初めて、みさとは二人の距離があまりにも近すぎることに気がついた。
自分はほとんど岩井に抱きかかえられるようにして、胸と胸を密着させている。合わせたお互いの胸の鼓動が高く、早くテンポを刻むのがわかった。急に息苦しくなり、息を吸うと、整髪料と彼自身の匂いが鼻腔をくすぐった。今まで嗅いだことのない男の香り。しかし、なぜか無性に切なくなる。
その時、脳裏に真奈美の顔がよぎった。
私の好きな人を奪った大嫌いなあのコ。
なら私だって、真奈美の大事な人を奪っても、いいじゃない?
その邪な思いを暴くかのように、チカチカっと蛍光灯が瞬き、突然部屋が明るくなった。
「ああ、良かった」
頭の上で、岩井のホッとしたような声が降ってくる。それでも、みさとは相手の首に腕を回したまま、動かなかった。
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