大嫌いなあの子の、パパ

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 みさとは一人、そうめんと天ぷらの夕食をすませてから二階の自室に行くと、すぐに机に向かい、フランス語のテキストを開いた。  大学二年生になって選択した、フランス語のテストが近い。みさとはテキストから拾った単語をレポート用紙に書き連ね、暗記する作業に勤しんでいた。  湿気を含んだ涼風が、時折レースのカーテンをふわりと持ち上げる。  しばらく勉強に集中していたが、外から賑やかな声が聞こえてきて手を止めた。仲間と食事に行っていた父親が、そのまま皆を連れて帰ってきたようだ。  「あ……。そっか、土曜日だもんね」  父親はほとんど中毒と言っていいほどの麻雀好きだ。それでも親子三代続く工務店の頭である以上、平日は真面目に仕事に励んでいるものの、週末になると地元の仲間を集め、全身全霊をかけて麻雀に挑む。それも、家族の「夜中までうるさい」という苦情対策に、庭の物置を改築した『麻雀サロン』で、だ。  とはいえ、祖父母は老人会の温泉旅行へ行っていたし、歌舞伎好きの母親は、「夫が好きなことをしてるなら私も」と、今日は泊まりがけで東京へ歌舞伎鑑賞へ赴いていた。
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