大嫌いなあの子の、パパ

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 スマホの時計を見ると九時前だった。冷蔵庫から作り置きの麦茶と、グラスを四つ盆に載せ、居間の縁側から庭に出る。 「こんばんはー。麦茶どうぞ」 「おお、みさとか。気がきくな……ううん……これはどうしたものか……」  六畳あるかないかの部屋の中央に、全自動麻雀卓が置かれている。そこに中年男が四人、卓を囲んでいた。エアコンをつけているが、室内は夏の暑さとは違う熱気が満ちていた。  父親は台から顔を上げもせず、手持ち牌をにらんでいる。 「あら、そんなの捨てて大丈夫なの? タイちゃん」  常連である和菓子屋の親父は、みさとの父親が手放した牌を見て嬉しそうな声をあげた。 「みさとちゃん、そんな短いパンツ履いてたら、おじさんの血圧上がっちゃうよ。おまけに生足。ちょっと、坂口さん、注意したほうがいいんじゃないの、お宅のお嬢さん」  みさとは隅のカラーボックスの上でグラスに麦茶を注ぎながら、コンビニ店長の松下をにらんだ。しかし、相手に悪びれるようなそぶりはまったくない。なにしろ、みさとが小さい頃からの付き合いだ。今更、臆するものもないのだろう。
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