大嫌いなあの子の、パパ

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 居間に戻り、テレビの横で岩井の携帯を充電する。目立つところに置いておけば、居間に入ってすぐにわかるだろう。みさとはそのままお風呂に入り、部屋に戻るとラップトップを立ち上げた。勉強は明日にしよう。  パンツ一枚にデカTシャツという格好で、ベッドの上に寝転んでお気に入りのショップのサイトを見ていたが、可愛い洋服や靴を見ても、なぜかテンションが上がらない。  いつのまにか風が強くなり、レースのカーテンが音を立ててはためいた。 『誰もかけてこないから、大丈夫』  ふと、岩井の寂しげな声が耳に蘇った。  岩井は数年前に離婚している。それをなぜみさとが知っているかというと、彼の娘がみさとの同級生だったからだ。  娘の岩井真奈美は、中学卒業と同時に母親と、母親の実家に戻ってしまった。 『岩井は浮気するような男じゃないからなあ。嫁さんの方かもしれんなあ』  結局、その理由は岩井の先輩である、みさとの父親も聞き出せなかったらしい。しかし、その噂は静かに、しかしこの界隈では誰の耳にも入っていた。
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