大嫌いなあの子の、パパ

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 ちょうどその時、部屋をノックする音がして心臓が跳ねた。父親じゃない。父親ならノックなんてしないでいきなり入って来る。 「は、はい?」 「みさとちゃん? ちょっといいかな。もう帰るんで」  岩井だった。ディスプレイの時計を見ると、すでに十一時を過ぎていた。 「どうぞ」  みさとがベッドに正座すると岩井がドアから顔をのぞかせ、手にした携帯電話を掲げて見せた。 「これ、ありがとう。遅くまでお邪魔してごめんね」 「え? もう終わったんですか? いつもなら日付変わってもやってるのに」  彼は可笑しそうに笑った。 「実は、あれから僕が一人勝ちして、みんなつまらないって早々に切り上げて飲みにいっちゃったんだ。ほら、小百合ママの店に」  近所のカラオケスナックだ。それもいつものことだった。ただ、今日はちょっと時間が早いだけで。それでも泥酔して帰って来るのは明け方近くだろう。 「みさとちゃんのおかげかな。本当に勝利の女神だった。ありがとう」 「そ、そんなこと、ないです」  顔の前でパタパタと手を振ると、岩井はそれに応えるように片手を上げた。
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