前篇

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 珍しい。しかも、こんな大雨の日に。というニュアンスが含まれている。 「ライブ……」 「あら、そう。気をつけて行ってらっしゃい」  四年制大学を卒業したのに就職活動もせずフリーターになってしまった娘を、咎めることもなじることもしない。  それを、わたし自身が勝手に、わたしは悪い娘だと、責めている。 「行ってきます……」  玄関で忘れ去られたように立てかけられていた傘を持って、わたしは外に出る。  繁華街にあるライブハウスへは徒歩と電車で1時間かかる。駅までは徒歩10分。  ICカードなんて持っていないから、当たり前のように切符を買う。通勤ラッシュの時間帯は過ぎていて車内は空いていた。  えんじ色のロングシートの端に座って、顔は車窓の外へ向けた。  都会へ近づくにつれて雨は小降りになっていき、電車を降りる頃には、すっかり晴れていた。 「……あ、虹」  空にはうっすらと虹がかかっていた。  ヴィケルカール。 ♪どんなに激しい雨が降って  すべてを奪い去ったとしても  虹のたもとには宝箱が眠っているんだ  そう信じて!
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