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 恐らくそれは悪気のないニュアンスだったのだろう。しかし一瞬にして、わたしは自分自身にレッテルを貼ってしまったのだ。変わった子。変わっている子。普通ではない子……。  それ以来、横断歩道は見ないで渡るようになった。ひたすら、周りと同じでいようとすることばかり考えていた。  他人と違うことをしてはいけない。  他人と違うことを口にしてはいけない。  他人に足並みを揃えなくてはいけない。  だんだん、『must not』が増えていった。それはやがて鎖になって、わたしを地面に繋いで、縛りつけて、動けなくした。  ツイッターの画面を閉じる。  膝の上に、自然と溜息が落ちた。  さくらの言葉を借りれば、初恋もまだなのは、人間としてどうかしているらしい。  憧れとか、ときめきとか、他人に対する感情はわたしにとっては別次元の概念だった。  翻れば特段嫌いだとか憎いという感情を抱いたこともない。  自分ではないものは不可解で、何を考えているか慮ることすらできやしない。  ……わたしには大きな欠陥がある。 『会ってからどんどん好きになればいいんだよ!』  別れ際にさくらから投げられた一言を思い出す。  くらげ青年のことを好きになるかなんて分からないのに、なんて軽率な助言なんだろう。
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