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今日は襟が花柄の黒いシャツを着ている。
「助手席しかないから隣に乗って」
運転席と助手席しかないなんて。今までに乗ったことのない、小さな自動車だ。
「……お邪魔します。お願いします」
「丁寧だなぁ。家にはクルマが2台あるんだけど、1台はでかいからこっちを借りてきた。フィガロって言うんだ。かわいいだろ」
「かわいい、です」
内装も今まで見たことがないレトロさでとてもかわいい。
「親父の恋人のなんだけど」
母親、という表現ではないことに事情を感じて口を噤んだ。
……勿論、デートなんかではない。
わたしたちはこれから隣の県のライブハウスへ向かうのだ。
きっかけはわたしが遠くで開催されるワンマンライブへ行ってみたいとツイートしたことだった。チケットもまだあったので、くらげ青年が半ば強引にこの遠征を決めたのだ。
「出発進行!」
オーディオ機能は不調らしくて、BGMはスマートフォンから直接流す。
「オープンカーだけど、街中では排気ガスがすごいから我慢。晴れた日の海岸沿いとか走ると最高なんだけどね」
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