後篇

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 家族以外が運転する自動車に乗るのは初めてだった。少し緊張して、両膝の上に拳を置く。 「大丈夫だよ。安全運転で行くから」  ヴィケルカールの曲を口ずさみながら、のんびりと自動車は走りだす。  くらげ青年は犬が好きで昔は飼っていたとか、わたしは動物アレルギーだからペットがいたことはないとか、他愛のない話をしながらゆっくりと街中を走る。  ふっと無言になる瞬間が訪れて、わたしはくらげ青年の横顔を見た。  ごく普通の、たぶん、わたしが今まで出会ってきたなかでも、普通のなかの普通の雰囲気を纏っている。  ……こういうひとのことを好きになれたら、いいのだろうか?  なんて考えてみるけれど、そもそも、恋愛感情とは何なんだろう。  普通とは何か、を常々考えながら生きているわたしにはさっぱり分からないのだった。 「コンビニ寄る?」  不意にこちらを向かれて息が止まりそうになる。 「あ、はい」  コンビニでくらげ青年と自分用にアイスカフェオレを買う。蓋に刺さったストローに袋が被さっている方を手渡した。 「ガムシロップ入りがこっちです」 「ありがとう。後で払うね」
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