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わたしなんかの、あんな一言で、よかったんだろうか。
くらげ青年は、その彼に、ちゃんと想いを伝えられたのだろうか。
だからこうしてわたしに話してくれているのだろうか。
それが事実だとしたならば、少し、ほっとする。
「あおさんなら常に落ち着いているから、こういう話してもどん引きされないかなって思って」
信号が赤に変わり、フィガロは緩やかに停車する。
「普通の人間、って何なんだろうな」
それはわたしにとって意外すぎる呟きだった。
くらげ青年こそ、普通の人間の代表だと思っていたけれど。
まさか同じ疑問を抱えていたとは……。
「俺も別に隠したりしたいんじゃないんだけど相手が嫌がるから、いつも黙ってて。でもそしたら、それはそれで嫌だったみたいで。わっかんないよなー。他人の考えてることなんて」
「……そうですね」
「なんか、よく分かんないけど、あおさんといると安心する」
「え?」
「ううん。なんでもない」
くらげ青年ははぐらかしてみせたけれど、言葉はたしかに耳に残った。『安心する』なんて言われたのは生まれて初めてのことで、なんだか、胸の辺りがむず痒くなった。
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