後篇

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 購入が遅くチケットの整理番号が後ろの方だったから最前列には行けなかったけれど、ライブは本当に楽しかった。  初めて、出待ちもしてしまった。  メンバーがライブハウスから出てきたところにくらげ青年が声をかけて、チケットの半券の裏にサインを貰ってしまった。  まるで1枚の紙切れが宝物になったようだった。  震える手で握手もしてもらえた。勿論わたしがまともに喋れる筈もなく、すべてくらげ青年任せだった。  それでも、そんな経験は初めてすぎて、うれしくて、楽しかった。 「あおさんがそんなにやにやしているの初めて見た」  歩きながらずっとチケットを眺めていると、まるで子どものようだと、くらげ青年が笑ってきた。  そう言われても悪い気はしなかった。  だって、楽しい。なんて、楽しい時間だったんだろう。  コインパーキングに辿り着いて精算機に駐車番号を入力する。料金が表示された。1200円。躊躇わず支払う。 「寄り道して帰ろうか」  すると、にこにことくらげ青年が提案してきた。 「25なら、門限もないよね?」 「……一応親に訊いてみます」
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