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おそるおそる電話すると、気をつけてね、朝帰りはしないように、との一言で済まされた。あっけなさすぎて拍子抜けしてしまう。
そして、拒否しなかった、自分自身にも。
◆
連れて行かれたのは夜の海岸だった。
近くのコンビニにフィガロを駐車して、オレンジジュースを買い、海岸まで降りて行く。
海水浴シーズンがとっくに終わっている夜の海。
昼間には白い砂浜と青い海なのかもしれないけれど、暗い砂浜と黒い海。曇っているからだろうか、月や星は全く見えない。
人気は勿論、灯りもない。静謐な世界。
ただの闇だ。
気を抜けば飲みこまれてしまいそう。まるで人間の住む世界じゃないみたいだ。
ライブで流した汗をゆっくりと潮風が乾かしていく。
「こわい……」
思わず口をついて出た言葉に、両腕で自らを抱きしめる。
「じっと、耳を澄ますんだ」
くらげ青年が隣で囁いた。
彼のそんな低くて暗い声を聴いたのは初めてだった。表情は闇に紛れて分からない。
「夜の波の音って、ベースみたいだから。身を委ねていると、だんだん、心地よくなってくる」
わたしはそっと瞳を閉じた。
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