後篇

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 どうしてそんな自然に、子どもがほしいとか、行為をしたいとか、思ったり口に出せたりするんだろう。そういうことを考えただけで、わたしは、背筋が粟立つというのに。  不快感とは違う。違和感と表現するのが近いかもしれない。とにかく考えたくない。考えるだけで、吐きそうになる。  子どもが嫌いな訳ではない。ただただ、それがわたしから最も遠いもののような気がするのだ。  ……ことさら強く感じるようになったのは、あの海岸での夜からだった。  波音と共に思い出す。  くらげ青年が失恋の寂しさを他人の体温で紛らわそうとしたことは、徐々に、わたしでも理解することができた。  では、わたしは?    ……その先はないだろうということも、同時に悟ってしまったのだ。  彼のことは好きかもしれない。  だけどそれは人間として、信頼に値するだろう、というくらいで。たとえばこの先、わたしの想いが強くなったとしても、付き合いたいと考えるだろうか? 一連の行為を求められるだろうか?  答えは、ノーだった。  どんな風に思考を巡らせても、イエスに辿り着かない。さくらのようにはなれない。 「どうしたの?」  はっと我に返る。 「すごく怖い顔してたけど、大丈夫?」 「大丈夫、大丈夫。一瞬ぼーっとしちゃった」 「そんな考え込む必要ないって。ほんと、真面目なんだから」  店内では数年前に大ヒットした、映画主題歌のオルゴール版が流れている。
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