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◆
「……どうしちゃったの」
「本当にすみませんでした」
下げられるだけ、頭を深く下げる。
閉店したパン屋の店内。
叔父は怒鳴らず、諭すように、両腕を組んでいる。
「ノーミスが売りの子なのに。レジのお金が5000円足りないだなんて」
いっそのこと大声で叱責してくれたらどんなによかったか。
「あの、今月分のお給料から、差し引いてください」
「そんなことしないよ。違算は違算。同じことしないように、くれぐれも気をつけてね」
「……はい。申し訳、ありませんでした」
もう一度深く謝り、外に出ると空は黄昏から夜に移ろうとしていた。黄昏の赤と青と、オレンジとピンクと、紺色と。たくさんの色が混じった空を見上げる。
……帰ろう。
駅前の商店街は仕事帰りのサラリーマンや買い物帰りの主婦で賑わっている。家路につく人々の流れに、立ち止まって動けなくなった。
不意に頭に浮かんだのは、くしゃっと笑う、くらげ青年。
声を聴きたくなって、顔が見たくなって、空を仰ぐ。
だけどわたしは彼のツイッターしか知らない。本名も、どこに住んでいるのかも知らない。今、誰の隣にいるのかも。
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