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それから、好きになった、あの曲のタイトル。
「……『青に浮かぶ虹』って曲が、ヴィケルカールを好きになったきっかけだったから」
「そっか」
少しの沈黙のあと、くらげ青年の掌がわたしの背中から離れる。
「俺、本名が……青っていうんだ。だから呼ぶ度にちょっとドキドキしてた。あおさんは、ほんとの名前、何ていうの?」
あお、という響きが、ゆっくりと色を変えていく。
黄昏から夜に移っていくように、すべてを含めて、混ぜていくような。
目を閉じたまま、わたしは小さく唇を動かす。
「あかり」
自分の名前をこんなに丁寧に発音したのは初めてだった。
「あかり、さん」
柔らかく名前を呼ばれて瞳を開ける。
「闇を照らす、灯り、だね」
その一言がわたしの本当の名前も特別なものにゆっくりと変えていく。
「少なくとも、俺にとっては」
目の前には、くらげ青年……青くんの、今にも泣き出しそうな顔があった。
「目、閉じてて」
青くんの唇がそっとわたしの唇に触れる。
時が、止まる。
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