後篇

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 ……不快ではなかった。夜の海岸と同じ感情が湧きあがってくる。わたしだって馬鹿じゃない。頭のどこかでこうなることは理解していたのだと、わたしのなかのわたしが言う。 『寝てみなきゃ分かんないよ』  さくらの言葉が襲ってくる。  ……だけど。  何も、ないのだ。どんなに必死に探してみても、わたしのなかには。  このひとを好きだという感情はあっても、触れたいという欲求が、どこをどう探しても見当たらない。  はじめから何もないから、満たしてくれようとしても、すべて零れていってしまうのだ……。  ‒‒正体は虚無で、絶望だ。 「俺」  青くんがわたしを慈しんでくれるのは理解できた。唇はわたしの首元へ、耳へ。腕はわたしをしっかりと優しく抱きしめている。青くんの鼓動が速くなっていくのも伝わってくる。 「俺、あかりさんが好きだよ」  そして、脅えているのも。  だってわたしの心拍数は変わらない。落ち着いたままで。  抱きしめ返すことができずに、泣くこともできずに、拒絶もできずに、何もかもできずにかたまっていた。  返せる愛がそこにない。  どうして。  どうして。
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