後篇

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「でも、そうだよな。俺のことだって、きっと、あかりさんは解んないよな……」  愛がふたりの境界を融かしてひとつにするというのなら、わたしたちには永遠に叶わない。だからそれを愛と呼んでいいのかは誰にも答えられないだろう。  だけど、青くんはわたしのことをさっきよりも力強く抱きしめた。一方で、熱を感じれば感じるほど、わたしには愛を満たす為の器がない。ただただ、空っぽなのだと、絶望だけが深くなっていく。  もはや、認めなくてはならない。  そう。わたしは、人間のフリをして生きているだけなのだ、と。 ◆  そのままふたりして眠ってしまい、明け方に帰ってきた青くんの父親に起こされた。見た目はいたって普通のサラリーマンで、とても優しそうなひとだった。  朝焼けで目が眩みそうになりながら、ふたりで手を繋いで駅まで歩いた。一言も喋ることはできなかった。  青くんの手は大きくてごつごつとしていて、とても温かかった。優しかった。  改札で泣き腫らした顔で、青くんが手を挙げる。 「またね」 「うん」  ふたりとも、次があるのかは分からなかった。
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