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わたしは切符を買って改札を通る。ほぼ始発の電車はがらんとしていた。端っこに座ると、感情がようやく落ち着いてきたのか、涙がぽたりと膝の上に落ちた。
「あああ……」
自覚してしまえば涙を止めることなんてできなかった。
たぶん、すごく好きだった。
‒‒きっと、初恋だった。
だけど、わたしみたいな欠陥のある人間には、叶えられることなんてなくて、そしてそれを一生ずっと胸にしまって生きていかなければならないということも、真実だった。
誰にも理解してもらえないだろう。だってわたしも、皆を理解できないんだから。
この想いは、永遠に消えない。
人目もはばからずにわたしは2駅分涙を流し続けた……。
◆
「信じられない!」
わたしは呆れてさくらを見た。
声を荒げたのは、珍しくわたしの方だった。
薄暗いフレンチバー。さくらは満面の笑みで右薬指の婚約指輪を見せつけてくる。
「嘘でしょ。ほんとに他の男たちをちゃんと切ったの?」
「さぁ?」
「さぁ、って」
あっけらかんと、悪びれもしない。
「そんな簡単に人間の本質が変わる訳ないじゃない」
そこには同意するけれど。
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