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説明する機会は来ないだろうから、代わりに微笑む。
「お祝い、盛大にしてあげるから。婚約破棄されないように、がんばるんだよ」
わたしでは手に入れられないであろう幸福の瞬間を、せいいっぱい、祝ってあげる。
「就活するから。ちゃんと就職できたらお給料も増えるし」
「え、ちょっと、何があったの。詳しく聞かせなさいよ。今日だってちゃんとした恰好してきてるから、あたしはてっきり彼氏とうまくいってるのかと」
「何もないから、ないなりにがんばろうと思って」
それは圧倒的に真実だった。
何もないから、それなりに生きていくしかない。誰かに理解してもらおうとは考えないし、理解してもらえるとも思っていない。
だけどきっと、皆、同じなんだ。
どうしても理解してもらえない部分を諦めながら、分かち合えることを探して。
いつか、見つけられたら、いいなと。
わたしは苦笑いを浮かべる。
「明日、合同面接会に行ってくる。がんばるから」
すると、ふっと、さくらも笑みを浮かべた。
「そうか。がんばれ、応援してる」
「……うん」
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