後篇

28/31
4人が本棚に入れています
本棚に追加
/54ページ
 説明する機会は来ないだろうから、代わりに微笑む。 「お祝い、盛大にしてあげるから。婚約破棄されないように、がんばるんだよ」  わたしでは手に入れられないであろう幸福の瞬間を、せいいっぱい、祝ってあげる。 「就活するから。ちゃんと就職できたらお給料も増えるし」 「え、ちょっと、何があったの。詳しく聞かせなさいよ。今日だってちゃんとした恰好してきてるから、あたしはてっきり彼氏とうまくいってるのかと」 「何もないから、ないなりにがんばろうと思って」  それは圧倒的に真実だった。  何もないから、それなりに生きていくしかない。誰かに理解してもらおうとは考えないし、理解してもらえるとも思っていない。  だけどきっと、皆、同じなんだ。  どうしても理解してもらえない部分を諦めながら、分かち合えることを探して。  いつか、見つけられたら、いいなと。  わたしは苦笑いを浮かべる。 「明日、合同面接会に行ってくる。がんばるから」  すると、ふっと、さくらも笑みを浮かべた。 「そうか。がんばれ、応援してる」 「……うん」 ◆
/54ページ

最初のコメントを投稿しよう!