後篇

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「……もしかして」  当てはまるのかは分からないけれど、自らを説明する言葉を手に入れたような気がして、少しだけ腑に落ちたというか、肩の力が抜けたような気がした。  初めて、生きていてもいいような気がして、目の前が開けたようにも思えた。 ◆  本屋を出る頃にはすっかりと晴れていた。  清々しいまでの青空が広がっている。 「あ、虹……」  繁華街の上に立派な虹が弧を描いていた。  6色のレインボーのなかには入れていないわたしだけど。  宝箱には、何か詰まっているだろうか?  スクランブル交差点では大勢の人間が信号の変わる瞬間を待っている。  そのなかのひとりに、青くんがいた。  彼もまたスーツ姿だった。大学生の就職活動も始まっているのだろうか。髪の色が黒い。眼鏡をかけていて、口元をかたく結んでいる。  見慣れない姿に、かっこいいな、と思った。  じっと見つめてみたけれど向こうはこちらに気づいていないようだった。
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