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 ちょうど本命バンドが大手レーベルからメジャーデビューを果たしたばかりで、その売り出し方に疑問を感じてついていけなくなり始めた頃だったというのもある。  曲を聴けば聴くほどヴィケルカールのライブが待ちきれなくなった。  やがてわたしと同じ感情を持っているアカウントがタイムラインにおすすめとして表示されるようになり、思わず一般人のアカウントも何人かフォローした。  フォローバックしてくれる人もいたけれど、わたしは何も呟かず、ツイート数は未だゼロのままだ。アイコンだって初期設定のまま。顔のない無機質なヒトのモチーフ。  それでもいつしか、フォローしているアカウントの、ごく日常的なツイートを楽しみにするようになっていた。まるで、いろんなひとの頭のなかを同時に覗けているような気分になれた。  現実世界の友人関係と違って、一方的に眺めている状態のなんと楽なことか……。  自分自身が内向的な性格なのは熟知していて、友人だと呼べる人間もかなり少ないのは事実ではある。それでもその少ない友人たちと定期的にやりとりをしたり、会って話をするという作業そのものには疲弊してしまう。  人間とは。他人とは。
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