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◆
世界が、安定しない。
履き慣れないピンヒールは容赦なくわたしを刺してくる。一歩進む毎に視界はよろめき、痛みは増す。靴擦れに貼ったばかりの絆創膏はあっという間にずれてしまった。
歩くだけでこんなに辛いなんて。
「ウェッジソールにすればよかったのに」
隣を歩く友人の冴島さくらがくすりと笑みを零す。
さくらはわたしよりも高いピンヒールを履いているのに平然としていた。そもそも普段からヒールを履いているから支障はないのだろう。
ヘアサロンで早朝特別料金を払って、きれいにアップされて花飾りが乗せられた髪型はとても似合っている。耳元では小さなダイヤモンドのピアスがゆらゆらと揺れていた。普段よりも濃いめのメイクに違和感はない。
ショッピングビルの前を横切るときに、フリーペーパーに掲載するスナップ写真を撮らせてほしいと頼まれていたのはさくらだけだった。
「ウェッジソールだって、かわいいデザイン、いっぱいあるよ」
「だってお店の人が薦めてくるから」
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