3章 ごんごろ探しで知った、縁×縁×縁

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 まだ幼稚園生だった頃、理音という名前の女の子とよく一緒に遊んでいた。  その子も母子家庭で、夜お母さんが迎えに来る頃の時間になると、慧の家の玄関チャイムが鳴るたびに飛び上がるようにして玄関まで走っていった。チャイムが鳴った瞬間の嬉しそうな顔と飛び出していく姿を今でも覚えている。ほんの少し、そういう笑顔にできるその子のお母さんに嫉妬したからだ。  紬という子も、境内でお母さんが迎えに来るまでごんごろと遊び、そうして、きっとそのお母さんが迎えに来た瞬間、慧やおっさんが見たこともない顔でお母さんのところに飛んでいくのかもしれない。  そんな紬を、ごんごろはどんな顔で見ていきたんだろう。例え猫に感情がないとしても、そこになにかを重ねたくなってしまうのは仕方ないかもしれない。 「あそこらへんの人たちはみんな紬ちゃんのこと、ごんごろちゃんと一緒に見守ってたのよ。ごんごろちゃんがいなくなって、あの子大泣きしたみたいだってねえ。かわいそうに」  まめきちのおばちゃんはまだごんごろや紬の話を続けていた。特にごんごろがどれだけかわいいかを力説している。  初めておっさんと一緒に見た時も思ったけれど、けっこう根っから猫好きなんだろうと思う。でなきゃエプロンに猫の缶バッジを3つも4つもつけていたりしない。  まめきちの店頭で立ち話していて平気なのかと思うけど、お客さんはのんびりと買い物してるし、その相手はレジ前にいるパートらしき人で十分なようだった。  でもアデールの御園生さんのところに向かう途中だ。それとなく伝えると、「あらやだ、つい。お父さんにも怒られるんだけどね、おしゃべりが過ぎるって」とまた続きそうになった。 「それじゃあ……」  そう言って頭を下げた。 「ほんとがんばってちょうだいよ。ごんごろちゃんのため、紬ちゃんのため、私たちのため。みんな野狐の実篤くんと君に期待してるんだから」  みんなっておおげさだなと思った時、まめきちのおばちゃんを呼ぶ声が店じゃない方角から聞こえてきた。 「あら、秋葉さん! ちょっとあんた大丈夫なのー!?」 とおばちゃんが慧に軽く手を振ってからその声の主の方へと体を向けた。  どうやら近所の人らしく、また世間話で盛り上がりはじめている。あんなに話すネタが尽きない人も珍しい。  そそくさとまめきちの店の前からアデールへと歩き出した。 「大丈夫だって、ごんごろちゃんは見つかるって。だってあんなにかわいいんだから。それに探してくれてる人がいるんだよ。みんな気にしてくれてるんだからさ、そんな気落ちしないで」  そんな声が聞こえてきて、少し振り返った。  腰の曲がったちんまりとしたおばあちゃんが肩を落として、まめきちのおばちゃんに何かを訴えているようだった。それにおばちゃんが寄り添って慰めているように慧には見えた。
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