4章 地獄につながる縁と、極楽(寺)につながる縁と

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 案の定、だった。  帰る間際になって、柿澤とその取巻き軍団がオレを呼び止めたのは。  できればおっさんのところに合流したいんだけどな。  そう思いながらも、目の前に立ちふさがる3人を見た。 「昼休み、瞳と何話してたんだよ」 「別にたいしたことじゃないよ」 「そんなこと聞いてない。何話してたかって聞いてんだよ。話さなきゃわかってんだろうな」  わからない、と開き直ってしまいたい。でもバンチョである柿澤の言う意味は、自分の要求に応えなければ明日からクラスでハブられても知らねえぞ、ということだ。  くだらないと思いながらも、これから先の平穏で平凡で平和な学校生活を考えると、柿澤に反抗するのはやっぱり得策じゃない。 「……自分で香坂さんに聞いてみればいいのに」  たぶん柿澤はわかってるんだろう。香坂さんがどんなことを聞いたか。  でも彼女を好きな柿澤としては、直接聞くなんて、プライドが許さないのだ。 「そんなこと聞いてないんだよ、さっきから。なに、言えないってわけ?」 「別にそういうわけじゃないよ。香坂さんに口止めされてるわけじゃないし」  内心で大きくため息をついた。  こんなことにかかずらってる場合じゃないんだけど。 「オレが権五郎神社のごんごろを探してるのは知ってるよね?」 「ごんごろ?」 「猫のこと」 「ああ、なんか占いができるとかいう?」 「それをね、よろしくって言われたの。彼女、相当ごんごろをかわいがってたみたいだから」 「で、それだけで連絡先交換すんの?」 「するでしょ。オレはほんのわずかでも情報ほしいし、彼女はちょっとでもわかれば情報を伝えたい。ごんごろを見つけたいんだから」 「じゃあなんで、瞳は、顔を赤くしてたんだよ」  来た。本当に聞きたいのはそこなんだろう。  面倒くさい男だなと思いながら素直に答えた。 「カフェ&バー アデールってとこのオーナーさんの名前を知りたかったみたいだよ」 「アデールの……」  柿澤がそのまま言葉を失った。  そりゃショックだと思う。だって、学校の中なら多少は自分の思い通りにできたとしても、外の社会のこととなると柿澤の手には負えない。好きな子の好きな人が高校生ではなく立派な大人の男だとしたら、柿澤が太刀打ちできる部分なんてない。  実際、御園生さんはかっこいいと、同性から見ても思う相手だ。 「じやあオレ、そろそろ行きたいんだけどいいかな」  突っ立ってる3人の脇を通り過ぎようもすると、「ちょっと待てよ」と腕をとられた。 「いやもういいでしょ。オレ、ちょっと用があるから、ごめん」  そう言って腕を振り払うと、柿澤の隣にいたクラスメイト(取巻き軍団、って一括りでしか認識してないから名前は忘れた)が「待てよ」と引っ張った。  その力が思ったより強くてよろけ、ついイラッとしたのがまずかった。 「だから急いでるって言ってんじゃん。そんなに香坂さんがなに話してたか気になるなら、自分らで直接聞きなよ」  ダセエことしてんな、と言わんばかりに吐き捨てたそれに柿澤ではなく、ほかの2人が反応した。 「ちょっと香坂さんと仲良くなれたからって宮島、調子こいてんじゃねえぞ、こら」  いわゆるガタイのいい、たぶん血の気が多いタイプの片方が慧の胸元をつかんだ。  穏便に済ませたかったのに、しまったと思っても時すでに遅し。  柿澤は高みの見物ばりに手を出さない分、オレとそのほかの2人と揉み合いになり、非力なオレはあえなく無様な姿をさらす結果となった。
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