6章 面掛十人衆(一部)の男たち

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 筒井の家を出て、ため息をついた。 「なかなかそう簡単じゃないね」  そう言ってもおっさんから返事はない。なんとなく振り返るとおっさんは少し考えているようにスキンヘッドの頭をつるりと撫でるのを繰り返していた。 「おっさん?」 「あ、ああ。慧、……ちょっとな、気になんだよなあ」 「何が?」 「さっき安堂徹さんの話が出ただろ?」 「介護してるっていう?」 「そう。古谷さんも筒井さんも、十人衆は挨拶だので忙しくて、っていってるけどな、そんなに忙しいなら介護してる家に戻る余裕なんてもてんのかって思わないか?」  介護、と言われてもぴんとこない慧は、なんとなく黙っておっさんが言わんとしていることに考えを巡らせようとした。でもおっさんにはそんな慧に気づいていたらしい。 「いいか、介護っていうのは要介護度にもよるが、本当に大変なんだよ。もしそんなに頻繁に介護する必要があるなら、面掛行列、いや例大祭に出てる余裕なんてないだろ」 「でも介護って、ほら、なんかショートステイとかヘルパーとか、一人で背負わないようにってなんかなかった?」 「それだよ。少しの間預けるとか、人に見てもらうとかできると思うんだが、安堂徹さんって人はそれをしないで自分の家に帰って、また戻ってきてを繰り返した」 「……でも、その制度ってタダじゃないんでしょ? お金がないとか」 「まあそれは否定できない。人さまのご家庭の内情なんざわかんねえからな。でも、どうも引っ掛かんだよなあ」 「どっちにしても、残りは安堂徹さんって人と細田照彦さんって人の2人だよ。ご近所同士っぽい位置だけど、細田照彦さんってとこは店やってるんだよね? 後にして、先にその安堂徹さんとこでいいんじゃないの」  何かが気になるらしいおっさんを置いて歩き出した時、ふと前方に見知った姿がよぎったのが見えた。  理音と紬。  思わず走り出した。 「あ、おい!」とおっさんが後ろで声をあげた。
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