Q航空

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騒ぐ男が押さえつけられている所を、乗務員がヘルメット、酸素マスク、防寒服、パラシュートなどを慣れた手つきで次々と着せていく。 「準備完了、ではお願いします。良いフライトを!」 と言った瞬間、シュポン!と音を立てて男が床に吸い込まれて行った。床にハッチがある訳でもないし、どういう原理で男が外へ放り出されたのか分からない。しかし確実に飛行機内から姿を消した。 「この放出装置は機内と機外の気圧差を利用した、我が社自慢の最新技術です。数年後には宇宙ステーションのトイレにも採用される予定です。では座席に備え付けられている液晶画面をご覧ください。今しがた放出されたお客様のヘルメットにCCDカメラがついておりますので、一人称視点で落下の様子をご覧頂けるようになっております」 雲が下に見える。気圧が低く光を屈折させる空気が少ないせいか、空がくっきり見える気がする。音声はないらしい。雲の層を抜け、うっすらと地上が見えてくる。恐らく福島県辺りだろう。乗務員が解説を始めた。 「パラシュートは全自動で開くようになっております。あ、落下速度が変わりましたね。無事開いたみたいです」 おー、と高校生達が声をだす。一般社会から一定の距離を置く、所謂(いわゆる)モラトリアムを謳歌(おうか)している人間の方が凝り固まった常識に捕われず、こういう珍妙な状況にも早く順応出来るのかも知れない。 「では、気を取り直して回答者を改めて選別したいと思います」
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