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天井の機内ライトが点滅し始めた、ドラムロールも聞こえる。フライトアテンダント達が楽しそうに糸巻きの歌の振り付けの如く腕をグルグルまわしている。そして突然音が止み、ライトがある一点を照らし出した。回答者に選ばれたのは袴田照雄。そう、照雄の頭が照らし出されたのだ。
いつもの袴田なら怒り散らすだろう。だが今は歯をガタガタ言わせ怯えきっている。例え大声を上げて暴れても筋骨隆々の男達に押さえつけられてしまうし、反論しても外へ放り出されるからだ。自分にはなす術がない事を悟り戦慄している。
「お客様、回答ボタンをお持ちの上こちらまでいらして下さい」
「…は、はい」
おぼつかない足どりで先ほど男が放り出された所までフラフラと向かった。
「では問題です」
淡々と進んでいく。
「あなたは私立済南高等学校学年主任の袴田照雄様ですが、生徒の皆さんから呼ばれているあだ名は何でしょうか?十秒以内にお答えください!」
「…あ、ええっと…」
(見当がつかない。あだ名?私に?いつから?)
「え…その…」
「残り三・二・一、時間切れです!残念!正解は頭照雄でした!」
機内が笑いに包まれる。無論袴田にとってこの不名誉なあだ名は受け入れ難いし、それに対して笑う生徒達にも怒りを覚える。しかし今から自分自身が上空一万メートルにほっぽり出されるという、今まで経験した事のない恐怖に比べれば取るに足らないものであった。乗務員が例の如く防寒具などを着せる。袴田は暴れもせず、まるでマネキンのように大人しくしている。
「準備完了です、ではお願いします。良いフライトを!」
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