Q航空

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 七月中旬、東京鰐田(わにだ)空港国内線ターミナル内、これからの修学旅行に胸を躍らせる私立済南(さいなん)高等学校一年生達の騒がしい声がこだましている。天井が高いからか、そもそも空港自体が広いからかよく響く。それを一生懸命教師達が整列させたり静かにさせたりしている。既に期末試験も終了しているし、これから猛暑日も増えてくるこの時期、まだ涼しい北海道へ行くというのはなかなか理にかなっている。そのうえ梅雨の影響も比較的少ない。 「大きな荷物は先に現地へ送っておいて正解でしたね、袴田(はかまだ)先生」 袴田とはA組担任兼学年主任の袴田照雄(てるお)の事である。生徒からは影で頭照雄(あたまてるお)と卑下されている。態度も怒鳴り声も必要以上にデカい男なのだが上背はない。威厳と虚勢を勘違いしている典型である。 「うむ。君に任せて良かったよ小尾田(こびた)君」 小尾田好太郎(こうたろう)はB組担任で、いつも袴田の顔色を窺っている。そして身長はそこそこありそうなのだが袴田と話すときは少し身を屈めるため、さながら教師二人の漫才を見ているようだ。必要以上に袴田が機嫌を(そこ)ねて問題ごとが増えるのを避けたいようであるが、媚売太郎(こびうりたろう)と裏では言われている。 「はい、チェックインは終わったから今から保安検査にいくぞー!騒がないで列になって進んで!一応チケットとかは出しとけ!」
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