18時過ぎのアノ子

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18時過ぎのアノ子

僕は昼夜問わず入れていたシフトを、全て夜に移動した。 もちろん、彼女に会いたいから。 毎日来てるのか分からないけど、朝昼で会ったことは無かった。 だから夜に賭けた。 そしたら大当たり! 彼女は頻繁に18時過ぎに来る常連さんだったのだ。 僕のヤマは合っていた。 ドアが開いた途端、心の中でガッツポーズをした。 彼女が来ると、必ずレジに入るようにした。 わざとゆっくりレジ打ちをした。 あ、嫌がられない程度にね。 彼女との接点なんて、ここしかないんだから。 少しでも長く、近くにいたかった。 あのフワッと香る甘い香水の香りが好きだ。 丁寧にお釣りを受け取る、華奢な手が好きだ。 商品を受け取る時に微笑んでくれる、その優しさが好きだ。 ワンピースの裾がなびく、小柄な後ろ姿が好きだ。 日に日に想いは募っていった。 それでも僕は、業務以外の会話すら出来ずにいた。 「今日も暑かったですね」 それくらい、言えると思うだろう? そんなの、手慣れた悪い男に決まってる! 僕はピュアな少年だ。 「いらっしゃいませ」 「ありがとうございました」 それだけで精一杯だった。 それなのに。 「こんばんは」 レジに来た彼女が僕にこう言ったんだ。 まさかの出来事に僕はオロオロするばかり。 「こここ、こんばんは…」 なんとか声を絞り出したかと思えば、手元に意識がいかず、バーコードを読み込むのに失敗した。 「初めてキミに会った時も、お釣りをこぼしていたよね」 ふふふっ、と彼女は微笑み、「気にしないで、ゆっくりでいいから」と、僕に視線を向けた。 その視線が僕を余計にポンコツにして、この日のレジは散々だった。 なんとか会計を終えると、 「また来るね」 と彼女は僕に手を振り、店をあとにした。 僕は口をポカンと開けたまま、「ありがとうございました」を言うのを忘れていた。
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