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【 最終話: 犯人の本当の隠しごと 】
俺は、この少女の言っていることが理解出来なかった。
どうして、彼女は、誘拐されたことを自分で認識していなかったのだろう……。
俺は、この謎が解けないでいた……。
すると、少女は、こう口を開いた。
「私、脳トレの謎解きが好きな同級生の男の子がいて、その人と今日遊ぶ予定だったの。でも、私、ここに隠れていたら、途中で急に眠たくなって寝ちゃったの……」
「えっ? それは、どういうことだい……?」
「謎解きが好きな男の子に、脳トレの挑戦状を作って、色々と仕掛けておいたんだけど……。倉庫に隠れてたら、温かくてついつい寝ちゃったみたい……」
「えっ? ということは、今までの『挑戦状』は、全て君が作ったものなのかい?」
「は、はい……」
「そ、そういうことだったのか……」
俺たちは、この少女の作った『脳トレ謎解きの挑戦状』を解いていただけだった。
最初から、誘拐なんてのは存在しなかったのだ。
俺は、それでも、内心ホッとはしていた……。
「あっ、『能登 礼二』くん! 今頃来たの!?」
「ご、ごめんよ。照子ちゃん……。時間に遅れちゃった……。謎解きは、どうなったの……?」
「もう、こちらの刑事さんが、全て解いちゃったみたい……」
「そうか……。遅れちゃって、しかも、照子ちゃんの『脳トレ謎解き挑戦状』に参加できなくて、ごめんよ……」
照子ちゃんが作った『脳トレ謎解き挑戦状』を、同級生の礼二くんが解いて、照子ちゃんを探すという筋書きだったらしい……。
俺は、中学生の二人のお遊びに、振り回されただけだったのかもしれない……。
「礼二くん、また新しい『脳トレクイズ』作ったら、時間に遅れずにちゃんと来てよね」
「うん、分った。ごめんよ、照子ちゃん……」
「ううん、いいよ。許してあげる……。だって……、礼二くんのことが……、好きだから……」
どうやら、この礼二くんという犯人は、照子ちゃんの『ハート』を誘拐してしまったようだ……。
彼らのかわいらしい「隠しごと」によって、俺たち大人はまんまと踊らされたのだ。
俺は、何故か、清々しい気持ちに、いつしか変わっていた……。
「さあ、ボ~ッとしていないで、行くぞ! 新間!」
「あっ! は、はいっ! 待って下さい、『平波警部』~!」
俺が今まで担当してきた事件の中でも、この事件は、かなり高度な知識を必要とする「難事件」だった。
俺のこの研ぎ澄まされた頭脳を持ってしても、犯人を追い詰めるのに苦労をした。
このかわいらしい事件だけは忘れない……。
犯人から突き付けられた『3つの挑戦状』……。
それは、俺の刑事としてのプライドを賭けた戦いでもあったんだ……。
END
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